国連大学ゼロエミッションフォーラム(ZEF)

JFUNUニュースレター2007年11月号より

循環型社会の構築を目指して

1992 年にリオデジャネイロで開催された「国連地球サミット」では、ゼロエミッションフォーラム環境の保全と経済発展を統一し、「持続可能な発展」をいかにして実現するかが議論され、その結果、具体的な行動計画を定めたアジェンダ21 が採択されました。

これを受け、国連大学(UNU)では1994 年、世界で初めて「ゼロエミッション」という考え方を提唱しました。ゼロエミッションとは、人間の活動から発生する排出物を限りなくゼロにすることを目指しながら最大限の資源活用を図り、持続可能な経済活動や生産活動を展開する理念と手法です。そしてこのコンセプトの普及を目指し、さらに実践的な活動を広げるために2000 年、産業界、官界、学界の協力関係の下にUNU本部にゼロエミッションフォーラムが創設されました。

この国連大学ゼロエミッションフォーラムのこれまでの歩みと今後の展望について、フォーラムの藤村宏幸会長(株式会社荏原製作所元会長)と鈴木基之学界ネットワーク代表(東京大学名誉教授・国連大学特別学術顧問)にお話をうかがいました。

経済優先から環境と調和した人間の活動重視へ

鈴木高度経済成長時代、日本は大量生産、大量消費に基づく物質文明を享受しましたが、鈴木基之学界ネットワーク代表次第に資源の限界や廃棄物問題に象徴される環境問題が明らかになってきました。資源の限られる日本は輸入資源に頼ってきましたが、最終的にそれらが大量の廃棄物として国内に堆積していくことなどが問題化してきたのです。

その結果、経済活動を維持しながら、廃棄されるものを新たな資源として活用していく循環型社会を実現することが強く求められるようになりました。経済的な豊かさを最優先する考え方から、環境と調和した人間の活動が大切であるという価値観があらためて浮かび上がってきたのです。「もったいない」ということばが最近、リサイクルの精神を象徴したものとして尊ばれていますが、そもそも日本人には「もったいない」という感覚で節約をしたり、ものを使い回ししたりする生活習慣は昔から強くあったのです。

こうした循環型社会を作るためには、従来型の産業構造を変革していくことが必要となります。廃棄物の資源化を目指したビール工場をはじめ、その他の企業でも、それぞれの関心のもとで廃棄物を減らす取り組みを進めてはいましたが、特定の企業や業種だけがこうした活動を推進するのではなく、例えば一部の企業から排出された廃棄物を別の企業が受け入れ、燃料としてリサイクルしていくというような、産業業種間で廃棄物の相互利用を図ることによってこそ、単一のプロセスでは達成できない資源の有効利用が可能となり、実際にセメント産業にその例が実現されました。

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UNU が実現させた産・官・学の連携

鈴木UNU は企業だけでなく、自治体、学界も含めて三者の横断的かつ弾力的な協力関係の下に資源採取量と廃棄量を減らし、さらに資源が無駄なく循環される「ゼロエミッション社会」の構築を推進していくべく、1995 年4 月に第一回の世界会議を開き、ゼロエミッション構想を提案しました。以降も毎年世界会議を開催してその普及に努め、2000 年に企業、地方自治体、学界が一同に会し、情報交換できる場としてゼロエミッションフォーラム(ZEF)を設立しました。フォーラムの活動を通じて、企業グループ、地方自治体グループ、学界グループが互いに連携を図り、高度に工業化した中で、新たな物質循環型の持続的な社会の実現を本格的に目指していこうとしたのです。産官学の枠を超えた組織の成立は、UNU がリーダーシップをとることによって実現できたといえます。

藤村最近では企業の努力により、省エネ・省資源の製品がリーズナブルなものとしてマーケットに流通するようになってきました。藤村宏幸会長荏原製作所では、鋳鉄の5分の1 の重量ですむステンレスを新たな素材としたポンプを開発し、それによってポンプの寿命が長くなっただけでなく、インバータ制御により電力消費を30%も抑える省エネを実現しました。当初、この製品は従来品より価格が10%程度高額なため、売れ行きはよくありませんでしたが、リース方式に切り替えることによって利 用が促進されました。ZEF の活動を通じて、キャノンやリコーなども省エネ製品の開発に積極的に取り組み、他にもそうした企業が増えてきています。

省エネや省資源製品を企業活動の中で生み出すためには、開発コストが高くつくのかというとそうでもないのです。そうした技術は、ハイテクばかりを組み合わせているわけではなく、例えば50 年前にすでにあった技術を利用することによって、達成できることも多いのです。ゼロエミッションを推進するためには技術力ももちろん必要ですが、要はその思想や心がけが大事だといえます。さらに政府や自治体が、制度的な施策や基盤づくりをいかに進めるかというところも大きいでしょう。

鈴木フォーラムは、企業ネットワーク、学界ネットワーク、自治体ネットワークに分かれていますが、学界ネットワークでは、1995 年から2001 年まで大規模なプロジェクトを行いました。文部省(現文部科学省)の特定領域研究に指定された活動で、化学をはじめ、環境工学、化学工学、経営工学など多彩な分野の研究者が集まって、ゼロエミッションを目指した物質循環の構築をテーマとして、最終的に「ゼロエミッション型産業をめざして」という報告書をまとめ、産業各業種における資源の有効利用を目指す取り組みの事例を紹介しました。

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今後 市民レベルに向けた活動も

藤村これまでZEF では、産業界、学界、自治体を中心に、情報交換や共同研究、実践活動を進めてきたわけですが、ZEFシンポジウム一方で地域からの要請により、年間6-7回ほど市民向けの講演会やシンポジウムも開催してきました。今後はさらにいっそう市民レベルに向けた啓発活動を進めていきたいと考えています。

鈴木ゼロエミッションの理念の中では、モノを作って売るという企業の行為に対して、消費者の側でもそれらが使い終わってどうなるのか、というトータルな視点を持つことが必要です。例えば最近の携帯電話は、技術革新によって新しい機能を備えた製品が続々と登場し、消費者もそれに応じて買い換えるわけですが、お払い箱となった携帯電話がその後どのような運命をたどっているのかに関心を持つことも重要です。

藤村海外での活動もより積極的に進めていきたいと考えています。特に著しい経済成長に伴って、廃棄物問題や環境問題が深刻化している東南アジア地域へ、日本での活動の結果を移していきたいと考えています。廃棄物は資源であるという意識を、東南アジアの人々にも持ってもらえるようにしていきたいですね。

ZEF がこうした新たな展開を進めていくために、財源の面での課題は否定できません。現在、産業界、自治体・今後 市民レベルに向けた活動も地域活動、学界の団体・個人合計約150 名の会員で運営されていますが、今後ともより多くの方々にご参加いだだき、ゼロエミッションの活動を推進していきたいと思います。

国連大学ゼロエミッションフォーラムの概要

●主な活動内容:・国際会議の開催・研究会の開催・国内の環境に関する事業や企業への視察・見学・異業種交流・地域活動の支援・研究開発の支援 等

●会員および会費:・法人会員-規模により1口3- 20万円・個人会員- 1 口5千円※詳細については、下記までお問い合わせください。

●ゼロエミッションフォーラム事務局/〒150-8925東京都渋谷区神宮前5-53-70
TEL:03-5467-1212
FAX:03-3499-2878
URL:http://www.unu.edu/zef/index_j.html

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