気候変動に苦しんでいる人々を助けたい
今夏、早稲田大学キャリアセンターからの派遣により、国連大学協力会でインターンシップを行ったのが同大政治経済学部3年生の岡村美慧さん。研修の一環として国連大学サステイナビリティと平和研究科博士課程に在籍するガーナ出身のヤウ・アジェマン・ボアフォさんにインタビューしてもらいました(構成:JFUNU)。
JFUNUニュースレター 2013年11月号より
―― どんな経緯でUNU-ISPの大学院を知りましたか?
ボアフォ:私はケニアのケニヤッタ大学で社会科学を勉強しました。卒業後、ケニア・コマーシャルバンクに1年間勤務し、会計とカスタマーサービスを経験しました。その後、ケニアワイルドサービスに勤務し、コミュニティマネージャーとして野生生物保護への地域参加を促す活動をしました。
―― 研究内容について教えてください
ボアフォ:気候変動によって被害を受けている地方の人々の生活を改善する方法を研究しています。地方に住むほとんどの人が農家なので、収入源である作物の出来が天候に依存してしまい、気候変動が人々の生活に直接大きな影響を及ぼしているのです。なので、地方に残る伝統的な知識、技術を利用して、被害から回復する力=Resilienceを探っています。
―― 具体的にどんな問題が発生しているのでしょうか?
ボアフォ:ここ30年、雨が降る時期が予測不可能になってきました。雨が予測できていた頃は、農作をする時期を決めることができましたが、今はできません。苗を植えても雨が降らなければ作物が枯れてしまいますし、土地もやせてしまいます。地方の人々は貧しいので肥料を買うこともできません。農業以外に収入源がなく、農作物のみに頼って生きている地方の人は農業ができなくなると、都市に出ていきます。しかし、教育を受けていない人、スキルのない人には仕事先はありません。道端の露店などで働くことになります。その仕事さえ見つからない人は、犯罪に走ります。その結果、気候変動の問題は社会全体の問題となってくるのです。気候変動の影響は、雨の予測不可能性のみならず、気温上昇や洪水にも至ります。気温上昇は、土地を悪くし、作物を枯らしてしまう他、山火事の原因にもなってきます。また、ガーナにはヴォルタ川という大きな川がありますが、雨が大量に降ると溢れ出して大洪水となり、家や作物をだめにしてしまうのです。
―― 現地ではどのように調査を進めていますか?
ボアフォ:コミュニティ・ベースの調査をしています。コミュニティの長老と一緒に座って、どんな研究であるのか、研究の目的は何なのかを説明して調査をよく理解してもらいます。そのあと、家々を回って質問をなげかけたり、話したりします。そこで、インフラを見せてもらったりもします。小学校とか、森林地とかね。あと、コミュニティには神聖な森というのが存在しています。そこの木は切ってはいけない、などの古いしきたりがあったりします。調査中は、コミュニティの中で生活します。一緒にコミュニティの回りを歩いたり、家族のイベントに参加したり。こうすることで、親密になることは大事です。信頼関係が生まれて、大事な情報を得ることができますから。
―― 将来的にこの問題を解決していきたいとお考えですか?
ボアフォ:はい。ガーナ北部のあるコミュニティの人々を助けたいと考えています。私は現地で彼らが苦しんでいる姿を目の当たりにしました。今書いている論文も大きな助けになるはずです。私は、彼らの生活を改善するために、まずはエンパワーメントによる能力構築が重要だと考えています。資金やインフラも大事ですが、それ以上に教育は重要です。それは、コミュニティの人々が外部の支援だけに頼るのではなく、自ら問題解決をすることを可能にします。たとえば、コミュニティ同士のネットワークを構築する能力を得ることができれば、問題や災害が起きたとき、コミュニティ同士で助け合うこともできますし、マイクロファイナンスのグループに入ることで、ビジネスをすることもできるようになります。
―― UNUのプログラムは充実していますか?
ボアフォ:はい。満足しています。博士課程は研究が主なので、実践的な授業が用意されていて非常にいいです。またUNUが提供しているコースは様々な種類があるため、楽しんでいます。もちろん新しいプログラムなので、問題がないわけではありませんが、これから改善できる点を一つ一つ磨いていけばいいと思っています。今要望があるとすれば、生徒一人ひとりの特別なニーズにもっと応えられるようしてほしいということですね。統計の力がないから統計学を教えるとか。
―― 今までで一番楽しかった授業は?
ボアフォ:菊池靖教授の授業が楽しかったです。対話式の授業だったので意見を自由に言うことができましたし、自分のガーナでの経験を話すこともできました。
―― トヨタ自動車から奨学金を受給していますね。大きな助けになっていますか?
ボアフォ:もちろんです。私が調べたところ、東京は世界で一番か二番目に物価が高い都市だということがわかりました。奨学金なしにここで勉強することは不可能だったでしょう。
―― 日本人との交流は十分にできていると思いますか?
ボアフォ:いいえ。もっと日本人と交流したいです。これもUNUに足りないところの一つだと感じています。今は一人暮らしをしていますが、近所の方と話すことがありません。ホスト・ファミリーのもとで暮らすこともできるのですが、ホスト・ファミリーも忙しいのでゆっくり話すことが難しいのです。ガーナでは近所付き合いが深く、よくご飯を一緒に食べたりするので、東京ではそれがないのが残念です。
―― 一般的な日本人が持つガーナへのイメージについてどう思いますか?
ボアフォ:日本人がガーナに対して持つイメージは、本当のガーナの真逆といえるでしょう。ガーナは確かに発展途上国ですが、首都は東京みたいです。インフラも設備も十分に整っています。実際、私は電気も水道もすべて整った環境で育ちました。地方では、確かに動物がいますが、人が住んでいる地域と動物が住んでいる地域は全く分けられています。動物は森やサバンナ、自然公園に住んでいるのです。これは日本人だけではないですが、開発途上国への無知は改善すべき点だと思いますね。テレビやネットといったメディアは偏ったイメージを与えがちです。ガーナといえばチョコレート、みたいにね。それだけではないということを知ってほしいです。私は研究者だから特にこう思うのかもしれませんが、人々には、他国についてもっと正しい情報を積極的に学ぶべき責任があると思います。ガーナ人だって、日本と言われればテクノロジー王国を思い浮かべると同時に、中国と混同してしまうことがあります。世界はグローバル・ビレッジです。たとえば、気候変動は国境をまたがって影響しあう問題ですよね。ガーナで起こったことは日本に影響を与える。逆も同じことです。お互いのことをよく知らねばなりません。 ガーナは特に他のアフリカの国と違ってユニークな国です。1975年から1981年の間にあったクーデターを除けば内戦の歴史が全くなく、平和な国ですから。平和だからこそ、他の国以上に発展していますし、特に政府はしっかりしています。他の国より民主主義が根付いているのです。ナイジェリアとかを考えるとアフリカは怖い、とイメージしてしまうかもしれませんが、そのときは、ぜひまずガーナに来てみてください。
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