サステイナビリティと平和研究所
国連大学の新戦略
国連大学(UNU-ISP)は、2008 年12月にドイツ・ボンで開催された第55回理事会において、国連大学本部(東京都・渋谷区)に新たに「国連大学サステイナビリティと平和研究所(United Nations University Institute for Sustainability and Peace 略称UNU-ISP)」を設立することを正式に決定しました。
これは2007年9月に就任したオスターヴァルダー学長の新構想に基づくもので、武内和彦国連大学副学長が2009年1月1日付で、所長に任命されました。
UNU-ISP では「サステイナビリティと平和」という総合的なテーマのもとに、学際的な研究活動を展開し、地球規模の緊急課題の解決を目指します。「サステイナビリティ(持続可能性)」を環境分野のみの問題として捉えるのではなく、平和と安全保障の分野にとっても大きな課題であると考え、既存の国連大学研究施設の協力体制をいっそう強化するとともに、国連大学と世界の学術界や政策提言部門との連携も構築していきます。また、UNU-ISPは将来的に、地球環境や平和問題を扱う大学院を開設し、さらに発展途上国の研究所と一体のツイン研究所構築を進め、アフリカやアジア太平洋地域での活動を積極的に推進していきます。
過去10年間、国連大学本部では「環境と持続可能な開発」、「平和とガバナンス」という2つのプログラムを中心として、学術活動を進めてきました。しかしながら、気候変動の激化、エネルギー資源の枯渇や食糧危機の到来が、とりわけ最貧国の安全保障や平和に大きな影響を及ぼすように、環境問題と人間の安全保障、持続可能な平和の問題は、いまや相互に密接かつ複雑な関わりを持つようになっています。
そこでUNU-ISPでは、過去の2つのプログラムの強みを生かしながら、「サステイナビリティと平和」という新たなテーマのもとで、分野横断的な課題を有機的に関連づけ、「地球変動」、「開発」、「平和」、「安全保障」などの問題に、革新的で総合的なアプローチで研究活動を展開していきます。2月に、アフリカにおける持続可能な開発のための教育をテーマとしたシンポジウムを開催したのをはじめ、すでに多彩な研究・人材育成活動を次々スタートさせています。
UNU-ISPの3つのテーマ領域
UNU-ISPの研究教育活動は、サステイナビリティと平和という統合的テーマのもとに、国連が取り組む最も喫緊の3つの領域にまたがって行われています。
地球変動とサステイナビリティ
主に人間の活動によって生じた大規模な変動が、地球環境にかつてないほどの影響を及ぼし、私たちの生存と繁栄に欠かせない生態系のサステイナビリティを脅かしています。UNU-ISPでは、持続可能な開発と、それを支える要素(環境、社会、経済)間の相互作用に対する理解を深めることを目指しています。
平和と安全保障
国連の第一目的は、国際平和と安全保障を維持することです。UNU-ISPでは、暴力的紛争、人権侵害、組織犯罪、病気の蔓延、兵器の拡散、テロなど、平和への脅威に取り組む研究を進めており、さらに、地政学的な状況の変化や気候変動の問題、経済のグローバル化と相互依存についても調べています。
国際協力と開発
国連は、「諸国間の友好関係を発展させること」「経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決すること等について国際協力を達成すること」を目指しています。UNU-ISPは、低開発、意思決定における代表不足、国内および国家間の経済・社会的不平等、資源、医療、教育、科学技術への不十分なアクセスなどに取り組む研究を行います。
UNU-ISPの将来構想
大学院学位の授与
UNU-ISPでは現在、共同学位プログラムを開始するため、東京大学、茨城大学、早稲田大学、一橋大学、国際基督教大学、アジア工科大学、ガーナ大学、ケープタウン大学等、日本や外国のトップクラスの大学と協議を行っています。東京都渋谷区の本部を拠点として大学院を設立し、UNU-ISPが課題とするサステイナビリティや平和に関連するテーマについて、修士号や博士号を授与できるようにする予定です。
具体的な計画として、2010年9月より修士課程に20人を受け入れ、2年後に博士課程を設置。学生の半数以上は外国人とし、その半数をアフリカなど途上国出身者とする予定です。海外留学生と、共同プログラムに所属する日本人学生の交流の場も提供していきます。
ツイン研究所
UNU-ISPは発展途上国にツイン研究所を設立し、アフリカやアジア太平洋地域の活動を積極的に立ち上げ、携わっていく予定です。すでにガーナのアクラにある国連大学アフリカ天然資源研究所(UNU-INRA)と提携し、このツイン研究所実現に向けた第一歩を踏み出しています。
UNU-ISP設立記念パーティーが開催されました
2009年3月26日、UNU-ISPの設立を記念して外務省、文部科学省、国連大学協力会(jfUNU)の共催によるレセプションが東京・渋谷の国連大学本部で開催されました。最初に塩谷文部科学大臣が「国連大学が、サステイナビリティ学を推進してきた」とこれまでのUNUの活動を高く評価。そして「UNU-ISPの設立によって、いっそうサステイナビリティと平和の研究が進展することを期待する」と挨拶しました。続いて伊藤外務副大臣、西村外務大臣政務官がスピーチを行った後、武内副学長が国連大学の新戦略とUNU-ISPについて、プレゼンテーション。さらにjfUNUの吉川理事長、矢嶋会長が、UNU-ISPの今後の新プロジェクトは、日本の社会や人々にとっても大きな貢献を果たすことになるだろうとメッセージを寄せ、その後、会場ではなごやかな歓談が続きました。